AIのべりすと文学賞

第2回 AIのべりすと文学賞

2025.11.1

募集期間 2024年12月1日(日)~2025年5月31日(土)
結果発表 2025年11月1日(土)

第2回「AIのべりすと文学賞」
審査委員長・橘川幸夫の総評

 2025年は、全世界的に「生成AI元年」とも呼べる、新しい時代の幕開けとなった。 テキストだけでなく、音楽や動画までもがプロンプト一つで生成される時代を迎えている。しかし、人間にとって最も根源的な表現は、やはり「文章」による言葉の世界である。

 「AIのべりすと」は、2021年7月に時代を先取りして公開された、AI技術による物語生成システムである。単なる自動文書作成ではなく、人間との対話を通して物語を共創していく。この仕組みを使って、多くのユーザーが物語創作に挑んできた。

 私たちは、こうした時代の流れを背景に、2022年度に「第1回 AIのべりすと文学賞」を開催し、今回はその第二回となる。

 AIと人間の協働が広く浸透するなかで、作品の完成度はさらに高まりつつある。今後も、AIと人間のコラボレーションによる新しい物語文化を、より多くの人々へと広げていきたい。

 ぜひ、多くの方々に「第2回 AIのべりすと文学賞」の受賞作に注目していただき、新しい才能の誕生をともに楽しんでほしい。

AIのべりすと開発者:Sta

 AIのべりすとは、チャットボットタイプのAIが流行する前にデビューしたので、去年まではテキストコンプリートAI(文章の続きを書くことを主眼に置いたAI)を手がけてきました。技術的な流れも鑑み、少々テキストコンプリート寄りの機能をもたせつつ、今年は「すぴこさま」シリーズのチャットボットタイプとのハイブリッドAIを開発しています。

 世間的にはAIを使って何かするというと、AIでイチから十まで書かせたり、完全に作業を自動化するというイメージがあります。実際に世間的な「AIで小説やプロットを書かせる」というようなテキストを見ても、一回のプロンプト(入力文)で全部を済ませようとする傾向があるようです。しかし、AIのべりすとの半分AI・半分人間で進めていくという考え方は変わっていません。その上でAIがさまざまな機能を持ち、一定以上の汎用性を得たことで、当初よりも幅のある使い方が可能になっています。

 実際に私自身がゲーム開発にテキストAIを取り入れる過程では、アイディアはあらかじめこちらで決まっているので、むしろ詳細で長い部分、たとえば架空の一国の歴史をシミュレートしてみたり、プロットの中で丁々発止のやりとりや対立・戦闘、キャラクターが取るリスクのある行動の部分をロールプレイングゲームのようにシミュレートしてみたり、といった使い方も行っています。最終的に作品として見えるのはその一部分になりますが、特に思考実験的なものや、ゲーム性をもったライティングではAIは大きく役に立つと考えています。私自身は直接審査には関わっていないものの、AIのべりすと文学賞の審査・選出においては、どのようにAIを使って創造性を増しているか、というプロセスの部分を重視するよう、事務局にお願いしました。

 デジタルアートの歴史をふりかえってみると、80年代のネットワークの発祥から00年代まではアナログで不安定だったクリエイティブのプロセスをデジタル化する、デジタルへの渇望の過程であり、2010年代はビッグデータ、データのライブラリ化と今度はアナログさへのあこがれの時代。2020年代は、これまで30年かけて集積されたデータを、ただ眺めたり解析するだけでなく、自由に操作できるようになる初めての時代です。

 2010年代まではデジタルのデータは線形的(リニア)にしか補間できませんでしたが、AIを用いれば非線形的な操作、たとえば、ジャズの楽譜を3Dオブジェクトや文章のプロットに変換したり、といったことが可能になります。木の枝をはさみで切ると、切ったところから自然に新しい枝が生えてきますし、生き物の傷口はふさがって新しい細胞組織に置き換わります。この、生えてくる枝をどのようにしたいかということをある程度コントロールできるのがAIです。2020年代は、クリエイティブにとってある種アナログよりもアナログな、超アナログ的な10年間になると考えます。その一端をみなさんでかいま見ることができればと思い、第2回を開催しました。

最優秀作品賞
作品名:おじいちゃんは国家反逆者
作者:事の顛末

【受賞コメント】
 昨今の成長著しい文章生成AIですが、突飛な発想力や執筆スピードが優れている一方で、脈絡や整合性などの細かな機微の点で人間には及ばない部分があるとも感じています。今回私は、次の一文に詰まった時「AIのべりすと」に頼ったり、「AIのべりすと」が出力した前後が繋がっていない文章を逐次手直ししたり、といったニ人三脚のような形で作品を書き上げました。どちらかに頼りきりではゴールにたどり着けなかったはずです。
 完全に人間に代わるものでもなく、人間を堕落させるものでもなく、辞書やテキストエディタが多くの執筆者を助けてきたように、創作をより手軽にするツールとしてAIが広まっていくことを心より願っています。

【審査員コメント:柳瀬博一】
 多くの作品が小説ではなく、プロットの説明になってしまっており、AIの悪いくせ「説明が上手」から出ることができていませんでした。
 この作品は、物語をメタ構造にして、小学生の視座だけで、登場人物のキャラクターを浮かび上がらせることに成功しています。
説明を最小限にしなければいけないショートショートですが、AIの手を借りながら、このレベルで仕上げられることと、何より作品として面白かったため選考しました。

【審査員コメント:KAHUA】
 中身は最後まで曖昧で、おじいさんは何をしてしまったのだろうかと強い好奇心をかき立てられた。あえて説明を避けることで読者に想像させる余地を残し、子どもの「おじいちゃんは絵が下手だから怒られたんだ」という無邪気な勘違いと、背後に透ける重大な弾圧との落差が鮮烈に響く。この“分からなさ”の余白がむしろ作品をリアルに導き、国家と個人、表現の自由をめぐる重い現実をじわじわと浮かび上がらせていた。素直な作文調の文章が、いつの間にか鋭い社会批評へと転じていく、その転換の妙こそが本作の大きな力だと思いました。

純文学賞
作品名:語られぬ君 読まれぬ詩
作者:だん がらり

【受賞コメント】
 この度は輝かしい賞を賜り、大変嬉しく、また有り難さを噛み締めております。
 「AIのべりすと」のAIたちと一つの作品を作り上げた喜びは、友人と世界観を語り合い、キャラクターの設定やストーリーの展開を夢想していた幼少期の原初の喜びを思い出させてくれました。
 物書きは執筆の間孤独に陥りがちだと思うのですが、創作の楽しみとは何かという視点に立ち返らせてくれたこと、AI×俳句×純文学という、私にとって未知の領域を共に冒険してくれたことに、心より感謝申し上げます。
今日の俳壇において生成AIが詠む俳句は大きな関心を呼び、重要な探究の対象になっています。AIが人間とともに詩情を育んでゆく未来は、詩の世界の地平を拓くと信じています。

【審査員コメント:ダ・ヴィンチ・恐山】
 AI補助によって作られた作品に多く触れるデメリットとして、テキストに対する期待が全体的に大きく下がるような「ただまとまっているだけの創作なら別にいいや」という気分が強くなったと思います。選考するうえでは、「小説として面白く、引き込まれるか」だけを評価軸にして読ませていただきました。
 この作品はまさにその時代性を映し出したテーマでありつつ、作中のテキストのどこまでがAI製なのかを考えるともなく考えてしまいたくなる、一種のメタフィクション的な含みも感じる作品でした。

エンタメ賞
作品名:怪異系女子モロイさん
作者:晃月芽依也

【受賞コメント】
 このたびは私の作品を選んでいただき、本当にありがとうございます。
 「AIのべりすと」に出会い、人生で初めて書いた長編小説を応募したのが、「第1回AIのべりすと文学賞」の時。それから二度目の挑戦で、まさかこのような光栄な賞をいただけたことが、いまだに信じられません。
 世間の流行を一切気にせず、自分の中にあった「作品未満の物語のカケラ」をありったけAIにぶつけ、AIもそれに対し全力で応える……そんな二人(?)によるセッションのログが、気がつけばひとつの作品になっていました。
 これからもAIの進化によって、もっと多くの「作品未満の物語のカケラ」が形になっていく未来を楽しみにしています。

【審査長コメント:橘川幸夫】
 高校という、小さな社会の箱庭を舞台にしながら、ホラーであり、ファンタジーであり、青春劇でもある物語だ。 読み進めるほど、細やかな仕掛けが連鎖していき、古い木造校舎の廊下や、夜気に揺れる制服の影が、文章だけで鮮明に立ち上がってくる。まるで、組子細工が静かに開いていくような展開と、時間と空間を自在に往還する構成力には目を見張る。恐怖と郷愁、喪失と救済が、自然な呼吸で同居している。
 長編でありながら、一気読みしてしまったのは、怪異の造形が単なる恐怖ではなく、「存在の輪郭を取り戻す」物語として成立しているからだ。
 AIと協働しながら書かれた時代の物語として、新しい表現の萌芽を見る。この作者には、さらに大きく、深い世界を描いてもらいたい。

AIショート賞
作品名:創作落語「一人心中」
作者:スートラ

【受賞コメント】
 この度は、素晴らしい賞をいただくことができ、驚くと同時に喜びに震えています。
 第1回では長編に挑戦し、AIの予測不能な言葉に翻弄されましたが、今回は短編と決め、AIと対話する創作を試みました。予測の難しいAIの出力に対して、人間が編集者のようにダメ出しや修正を行うプロセスは、スリリングでありながら大変楽しいものでした。
 「AIのべりすと」にどこまで委ねるべきか試行錯誤の連続でしたが、このツールが言葉の可能性を無限に広げてくれることを深く実感しています。
 これからも「AIのべりすと」と共に、新たな創作に挑み続けたいと考えています。もし第3回が開催されるなら、今回の経験を糧に、再度長編にチャレンジしたいです。

【審査員コメント:池澤春菜】
 とても好きな作品でした!
 現代落語としてしっかり成立しているし、オチもきれいに決まっている(正直、AIが作るギャグやダジャレはたいてい壊滅的に寒いのですが……これはちゃんと落語になっている、すごい)
 熊公(書き手)の問いにご隠居(AI)が答える、その試行錯誤のやりとり自体が「AIのべりすと」らしい発想で面白い。
 さらに、それを人間の手で再構成して“落語”としてまとめたところに、成功の鍵があると思います。
 人間はどうしても、もったいないと思ってしまうから、なかなか刈り込んだり切り詰めたりができないんですよね。けれど、この作品ではその取捨選択が見事に効いていて、リズムもとても良い。現代落語の新しい可能性かもしれません。

今回、残念ながら受賞にはなりませんでしたが、最終選考まで残った作品は以下です。

【佳作】

ジオラマから見た空

テーブルゲーム入門、或いは午睡の中

やみおとめさんと私