第1回 AIのべりすと文学賞 受賞作講評/作者受賞コメント

最優秀作品賞「798ゴーストオークション」

AIが美の基準を作れるのか?という今日的なテーマを扱っている作品。文章力と構成力ともに他の作品を遥かにしのぐ断トツの完成度だった。多少、人称の混乱はあったが文章にはリズムがあり、表現もアイデアに富んでいる。登場人物も魅力的だ。AIが5枚の絵画によって崩壊するという設定も面白い。AIがアート界を支配する近未来をAIのべりすとを使って書くという皮肉。この時代にAIのべりすとを使ってしか表現できないニヒリズムだと思う。(審査員:田口ランディ)

最近の傾向なのかAIの特性なのか私にはわかりませんが、一人称の作品が非常に多く、さらにその大半が「会話のみ」で作品を成立させようとしている点が目につきました。
また、「情景描写」がまったくない、あっても非常に少ない作品が多かったことも気になりました。会話だけで情景を想像させるのはいささか無理があります。
AIについては万年筆やワープロと同様の「記述ツール」であると判断しますのであえてAIだからと特別には見ませんが、前述の「情景描写」の少なさなどが「AIを使用したが故の」特性だとしたら改善の余地があるかも知れません。
単に作品として判断した場合は「798ゴーストオークション」が推薦できるものと考えます。 (審査員:入江武彦)

作者 高島雄哉さんの受賞コメント
このたびは素晴らしい賞をありがとうございます。21世紀に小説を書く人間としてAIは常に意識する主題であり、受賞作「798ゴーストオークション」では価値判定AIによるオークションを描いています。執筆中は必然的に小説の面白さ/価値を考えることとなり——AIのべりすとさんと完成さらに受賞に至り——思考の深化を感じています。
なお本文もAIのべりすとさんとの共同執筆です。
今後ともよろしくお願いいたします。

優秀作品賞「Undo能力を手に入れた俺と後輩の桜井さんの長い一日」 

ありがちな「タイムループ」設定ではあるが、「undo」能力設定がAIとの親和性が感じられ、違和感なく物語の世界に入り込めた。
会話劇を中心とした展開はAI的な無機質な文章生成を感じさせず、現代の若者の恋愛観が瑞々しく描かれていて好感が持てる。
特にコメディタッチで進行する展開の中で、主人公2人の心情が上手に表現できており台詞回しや会話のテンポ感も良い。アニメやドラマ映像シナリオに向いている。(審査員:竹内宏彰)

いわゆるプロンプトエンジニアリングが文章や画像の作成に有効だという認知が進んで、次に問われてくるのはどのように導いた文章であるかを明示することだし、作画の根拠をストーリーテリングに散りばめることだと思われる。この作品は、応募要項にはまだ書いていない状況を把握して進めている。読後感も痛快。(審査員:川田十夢)

作者 minetさんの受賞コメント
私の作品が受賞でき、大変うれしく感じています。私が「AIのべりすと」で作品を書く時に意識しているのは「AIのべりすと」はAIが人間の発想力や執筆力を補い、人間がAIの常識力や認識力を補う「二人三脚」なのだということです。
これからもAIさんとの二人三脚で、自分の中に眠る創造性を豊かに発揮して行けたらと思います。
ありがとうございました。

優秀作品賞「5分後に探偵未遂」

AIは道具です。どんなに創造的なAIがあろうと、自分自身の作品に役立てるべきツールなのです。「AIのべりすと文学賞」と銘打ってはいますが、AIらしさは関係なく単純な面白さで選ばせていただきました。結果的にAI生成の可能性と天然ボケを見事に凝縮した作品を推していました。AI生成小説の登場人物が実在の事件を解決しようと奮闘するコメディメタミステリ! AIのべりすとが相棒でなければきっと書けない作品です!(審査員:ダ・ヴィンチ・恐山)

作者 時雨屋さんの受賞コメント
世の中には映像作品に満ち溢れ、VRが流布し、秀麗なイラストがたくさん存在します。さて、そんな中で文字にしかできないことが、小説でしかできない表現がはたして存在するのでしょうか?
もちろんあります。だから小説はおもしろいのです。さて、この度は第一回という貴重な機会に、このような賞をいただけたことは大変光栄に思います。ありがとうございました。

AIショート賞「空に還る」

AIのべりすとの可能性はユーザーの方がいろいろと工夫して発見しているようです。詩や漫才のネタなど、使う側のアイデア次第です。今回の応募作の中では、「空に還る」は、AIのべりすとと著者が、語り合うようにして創られた作品だと思います。短い定形の中に、著者のさまざまな感情と、見えている風景を感じることが出来ました。短歌は若い世代の関心が高まっているようですが、今後も、AIのべりすと短歌の可能性を追求してください。(審査委員長:橘川幸夫)

作者 宇野なずきさんの受賞コメント
栄えある第一回のAIのべりすと文学賞でこのような賞をいただき、とても嬉しくいま部屋で飛び跳ねて喜んでいます。優れたショート作品を送った甲斐がありました。
短歌とAIの相性は結構良いと思っています。多少破綻した文章になったとしても、詩的な表現としては面白かったりするので。
創作者の友人として進化を続けるAIのべりすとにはこれからも期待しています。

小学館賞「カミガカリ 不自然言語処理連続殺人事件」

サナギと呼ばれる超常的な存在が、警察・検察が収集したビッグデータを飲み込み、未解決事件の“犯人だけ”を言い当て、検察に所属する主人公が有罪を立証するべく捜査するというミステリー作品。サナギのデータを飲み込み出力するというAIのような行為が「AIのべりすと」を使い書かれており、作品内容と執筆方法をリンクさせるという著者の発想力に脱帽した。後半のストーリー構成や描写にやや強引さを感じたが、この主人公とサナギの物語をもっと読んでみたいと思わせる秀作だった。(株式会社小学館)

作者 ギン・リエさんの受賞コメント
「AIのべりすと」と「文学」
両者の位置関係は如何ばかりか。作品を書き上げても、こうして賞を頂いた今でも分かりません。けれど、私の作品が、常に進化し続けているであろう距離感を測る物差しのひとつになれたのであれば幸いです。
Sta様、事務局様、審査員の皆様、小学館様、そして執筆中の私を励ましてくれてた友人たちに心からお礼を申し上げます。
これからもAIと文学の間にある可能性を探っていきたいです!

coly賞「好ってだけ」

全389作品の、AIと人間の合作という最新の創作の枠組みの中で、想像を超えた素敵な作品たちに出会うことができました。小説やショートショート、Q&A等さまざまな作品がある中で、一際目を引いたのはこちらの「好ってだけ」です。短歌として、短い言葉に秘められた感情に心動かされると共に、連作として見たときには関係性や情景の想像を掻き立てられました。人間にとって普遍的な、しかしすぐに忘れ去られてしまうような一瞬の感情が、際立った言葉の力によって描かれていると感じました。AIと人間の共作による、今後のエンタメの可能性にますます期待が高まる作品でした。(株式会社coly)

作者 坂本未来さんの受賞コメント
この度はcoly賞を頂戴し、誠に光栄に存じます。成人をしてから初めて賞をいただいたので、とても嬉しく思っております。光の速さで父親に自慢した所、実家猫のつららさんに貢ぎ物を購入する事になりました。
喜んで買わせていただきます。
AIのべりすと様で新しい短歌の作り方を知る事ができ、とても新鮮で楽しかったです。この度は貴重な体験と賞を誠にありがとうございました。


以下は、惜しくも受賞されませんでしたが、審査員が推薦した作品です。

異世界お客様相談窓口 〜ドラゴンの卵を電子レンジでチンしたら爆発しちゃいました!〜
作者:minet

お客様相談窓口という現代の切り口をファンタジー世界に広げた作品で終始、不条理なあるある感とゲーム感のある世界が入り混じった作品でした。
僕が好きだったのは「問い合わせ」と「その答え」で構成されるある意味ではリズミカルな、そしてある意味では飽きられやすい形でしっかりと流れを汲んでいるところです。広げようと思えばどうにでもなりそうなところを「あえて」そこに執着した作者のこだわりに拍手を送りたいです。(審査員:佐藤満春)

「明日やろうは豚野郎」
作者:太陽院りすか

一度閉店した伝説の豚野郎ラーメン。しかし店主の息子が2代目として復活することに。
謎と湯気につつまれた”豚野郎”ラーメン2代目店主が、試食会に招かれたプロのグルメライターに語る”豚野郎”ラーメンに隠されたある出来事。
グルメライターが語るラーメンレポートに食欲がそそられ、声に出して読みたい癖のある台詞、次々に明かされる真実、気がつけば物語に引き込まれ一気に読んでしまいました。(審査員:五味未知子)


第1回「AIのべりすと文学賞」審査委員長・橘川幸夫のご挨拶

 第1回「AIのべりすと文学賞」は、AIと人間の想像力が融合して作られた物語の、日本ではじめての文学賞にも関わらず、389本もの作品が寄せられました。本当にありがとうございました。

 厳正な審査の結果、大賞には高島雄哉氏の「798ゴーストオークション」が選ばれました。作家としての基本的な技術や構成力を持っている作家が、AI技術による文書生成システムを見事に使いこなした作品だと思います。これからの時代の新しい文学の可能性の扉を開けたと思います。

 私見を言わせてもらえれば、インターネットが登場したことによって、私たちの生活意識や生活方法が大きく変わりました。物書きである作家やジャーナリストも、これまでは現場を訪問したり、関係者を取材したり、図書館で資料を閲覧したりして知識を重ねて、文章で表現をしていました。しかし、現在は、インターネットを抜きにした取材活動はありえないと思います。用語の確認や事実関係の確認のために、検索をしない人はいないと思います。

 もちろん、インターネットに頼り切った物書きは薄っぺらいものになってしまいますが、ネットとリアルをうまく組み合わせた人たちが、これからの物書きだと思っています。

「AIのべりすと」は、インターネット環境の膨大な語彙のデータベースを処理して、一人ひとりの個性的な個人のクリエイティブ行為を支援します。開発者のSta氏は、「AIのべりすと」は「神」でも「奴隷」でもなく、「ティンカーベル」(妖精)であると評しています。まだ開発は、はじまったばかりですが、今後、更にインターネット情報の拡大とともに、作家にとっての愛すべき妖精として成長していくと思います。

 また、2022年は、AI技術を使った絵の創作や、音楽の創作技術が急激に進歩しました。それらを称して「AIクリエイティブの時代」が始まったといえるのではないでしょうか。そして、新しい時代に即した、新しい表現者が登場するのでしょう。

 第一回の「AIのべりすと文学賞」の各賞を受賞された皆様、おめでとうございます。惜しくも選に漏れた応募者の皆様に、深く感謝いたします。皆様のエネルギーをいただき、第二回の「AIのべりすと文学賞」を推進していこうと思います。ぜひ、進化している「AIのべりすと」を、引き続きご利用いただき、次回も力作の応募をお願いいたします。

 そして、はじめての文学賞の審査をお引き受けいただいた審査員の皆様に、あらためて感謝いたします。実験的な作品が多く、ご多忙に皆様には、貴重な時間をいただきました。今後も、「AIのべりすと」の可能性を見守っていただけると幸いです。

 人間と情報システムの新しい関係によって、私たちの新しい世界が開いていきます。今後とも、よろしくお願いいたします。

文学賞から始まるAI創作の世界

(AIのべりすと開発者:Sta)

「トリポッド」というSF小説があります。間抜けで知能の低い生き物のふりをした異星人を小ばかにしているうちに、気がつけば地球はまるまる侵略されてしまう。
西洋の人々は常にマンメイドの知能にあこがれながらも、「生態系の頂点にある自分たち人間を超えるものを作りたい」が「自分たちが超えられて支配されるかもしれない」という矛盾した欲求と恐怖を抱いてきました。

AIは本当に異星人のような、到底理解しようのないものなのでしょうか?

無機物や架空のものに人格を与えて可愛がったり、本気で入れ込んだりするのは私たち日本人や、東洋人に特有といいます。
今や日本は半導体やAIの覇権争いからは蚊帳の外かもしれないけど、逆にいえば私たちにしかできないパーソナルなAIの世界を構築できるはずではないでしょうか。AIのべりすとは、まさにそこを最初から目指してきました。

今回のAIのべりすと文学賞は、始まりに過ぎません。
「AIに仕事を取られるかも」とか「AIに負けるかも」という恐怖ではなく、「AIを活用して大作家になった」とか「AIのおかげで創作が苦でなくなった」という実際の成功体験がこれから次々に出てくるはずです。
その最初の触媒のひとつがAIのべりすと文学賞なのだと思います。

受賞者の皆様、おめでとうございます。

これからもAIのべりすとを使ったクリエイティブな作品との出会いを楽しみにしています。

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