デメ研社説・出版の未来(1)2009-10-21

出版の未来/橘川幸夫

◇これからの出版のあり方について、連続して分析・提言を行っていく予定です。
◇最初は書き殴りに近いものになると思うので、随時、推敲して変更していきます。


1.なぜGoogleは書籍の情報が欲しいのか。

◇鳩山政権が出来て、5人の首相秘書官が任命された。権力の中枢とも言える人たちだから、どんな人が任命されたのかと思い、インターネットで検索してみた。すると、主席秘書官の佐野忠克さん以外、まるで情報が出てこなかった。佐野さんは、細川内閣でも首相秘書官で、その後、弁護士をやっていたので「あのひと検索 SPYSEE [スパイシー]」にもweb上から見た人物像というのが出ている。他は官僚たちなので、公開されている情報がないということだろう。

◇インターネットですべての情報が調べられる、というのは誤解である。このことを確認しておかないと、インターネット検索だけで、あらゆる出来事が解析され、真実が明らかになると思われてしまう。あるいはインターネットに出てこない人は、価値がないかと思われてしまう。実際、戦後の日本社会において、とても重要な役割を果たしてきた林雄二郎さんは、Wikiすらなかった。僕らの仲間でアップしたが。「情報化社会」という言葉を作った人ですら、一般の人が関心なければインターネットにはまとまった情報が置かれないのである。もちろん僕のWikiもない(笑)

◇あらゆる情報には「発信人」がいる。インターネットの場合、大半の発信人は「本人」である。自分で自分のことを表現・告知・宣伝出来るのがインターネットというメディアの本質である。あとは、ニュース性のある他者に対して解説、コメントなどを言うことによって人物が登場して検索にひっかかる。霞ヶ関のビルの中にいる官僚については、大半の人は付き合いもないし、どんな人間か分からないので、政治の舞台に上がらない限り、コメントはつけようもない。一部の人をのぞいて、官僚がプライベートな立場でインターネット上で発言したりすることはない。

◇世の中にあふれている情報を、3分割するとしよう。量の規模は問わずに、質的な意味で3分割をすると、一つは、インターネット上に公開されている情報である。これは世界的に加速度的に膨張している。もう一つは、日常的に交わされる情報である。日々の些末な会話やうわさ話である。これはメディアには乗らないし、乗せる必要もないのだろうが、最近ではtwitterがこの領域に情報もインターネット上でアーカイブをはじめている。しかし、それぞれ各人の日常的情報が量的には最大のものであることは変わらないだろう。日常的な会話だけではなく、個人の思考も日常の中で行われるもので、情報は日常生活の中で生産され、インターネットなどのメディアに掲載されるのだろう。そして、もうひとつの情報領域が、旧来型のメディアが蓄積した情報である。出版、放送、新聞などのメディアにも膨大な情報領域がある。これも少しずつインターネットに取り込まれつつある。

◇インターネットのベースにあるのはテキスト情報である。映像、音声などのリッチメディアも増えてきたが、それでも圧倒的にテキスト情報の王国である。Googleがなぜブック検索を強引に推し進めようとしているのか。それは、書籍の情報こそが、現在のインターネットに欠如しているものを急速に満たしてくれるからである。

◇首相秘書官になった官僚たちのプロフィールは、インターネットでは検索できなかった。しかし、書店に行けば「政官要覧」のような本で官僚のデータを入手することが出来る。もし、日本の書籍がGoogle検索出来ていたら、首相秘書官の名前は「政官要覧」の中から検索が出来ただろう。インターネットのように自然発生的に情報が集まり拡大していくものと違い、書籍は読者というものを想定し、読者のニーズに合わせて「編集」されたものである。書籍の情報が全文検索されるようになったら、インターネットユーザーとしては、どれだけ利便性が高まるか分からない。

◇インターネットの最初は「書く」ことを目的としたシステムである。メディアが一部のインテリや業界関係者の特別なものではなく、誰もが書ける場として成立したことによって急速に発展した。乱暴に言えば、インターネット上の書き込みは、読んでもらわなくてもよいものである。それ以上に、書く喜びがある限り。しかし、書籍など旧来メディアは違う。読んでもらってはじめて書いた意味のあるものである。

◇検索エンジンの発達は、インターネットが「書く場」であることとは別に「読む場」であるという機能を拡大させた。ブラウザーの発明によるインターネットの登場を第一世代とすると、検索エンジンの登場は第二世代になるだろう。第三世代は、いよいよ、インターネットが新旧のメディアをどのように融合させていくのか、というテーマに突入していくのだろう。

◇さて、このような認識の上で、これからの出版業界についてしばらく考えて行きたい。