社説・デメ研マニフェスト ver.01
デメ研マニフェスト ver.01
1.参加型社会に向けて
◇政治状況が賑やかになってきました。この流れだと、自民党はかつての社会党のように霧散してしまうかも知れません。それはそれで歴史の流れからすれば必然だと思いますが、問題は、それでは僕らの社会は、どちらの方向に流れていくのか、ということです。現状の「民主に対する風」なるものも、「自民党政治に対する拒絶感」という否定のエネルギーに支えられていると思うので、本当のポジティブな支持でないかぎり、出来上がった権力に対して、また不満や拒絶感が出てくるだろうと思います。日経新聞で野口武彦さんが寄稿していたように、明治以来の政体を変革しない限り、今回の政変も新種の「政権たらい回し」になりかねません。
◇僕は19才の時に「参加型メディア」のビジョンに啓かれて、以来、一貫して参加型メディアの具体的なあり方と、背景の理論構築を行ってきました。それは「参加型社会」へとやがて収束していく、情報化社会・メディア化社会の行く末を見ていく活動でした。参加型メディアの本質は、テクニカルな仕組みではなく、参加する一人一人の参加することへの渇望と意志にあります。そして、それらの個人がP2Pの関係でつながる社会こそが僕の目指した社会システムです。時代は間違いなく、そちらの方向に向かって進んでいると思います。
◇参加型メディアを追求する時に、最大の抵抗勢力と映ったのは、「代理人」という立場の人たちです。近代社会は、あらゆる「代理人」によって成立していました。個人と個人がつながろうとする時、その間に「代理人」と呼ばれるものが存在して権力を維持しようとしています。それは、「評論家」というような存在だったり「プロフェッショナル」という存在だったり、あるいは企業などを含めて「組織」というものが個人の代理人として機能していることを知りました。僕は「素人」という立場に固執し、ライブ感を重要視してきました。インターネットの世界においては、こうした素人(普通の個人)が、新しい文化を作ってきたのだと思います。
◇社会における最強の代理人は政治家です。選挙による代議員制度である限り、個人の思いは政治家に仮託しなければなりません。地域や団体などの権利獲得も、議員にゆだねなくてはなりません。この構造が強固に肯定されている限り、僕は、現代日本社会で生活しながら、選挙行動に対しては、消極的にならざるを得ません。仲の良い友だちが立候補して、個人的に僕と約束してくれるなら応援するけど、抽象的で無人格な「党」という代理人組織と個人的な付き合いが出来るわけがありません。僕は企業とつきあう時も、企業そのものと付き合うというよりは、○○会社の誰々さんと付き合う、というスタンスで仕事してきました。
◇しかし、どうやら、日本の社会が大きく変容するタイミングに直面してきたようです。それは、今回の選挙で政権交代が起こることではなくて、そこから、新しい時代の流れがはじまるかも知れない、という予感です。
2.ネット投票を!
◇今回の選挙の重要なポイントは「世襲制問題」です。世襲制というと、地域の政治家一族が自分の家を守るために世襲を進める、というように受け取られていますが、実際はそういうことではなくて、世襲を進めてきた最大の力は後援会だと思います。後援会は、それ自体がビジネスになっていて、政治家を立てることで食っている人がいるわけです。また、その周辺には利権を活用している人たちもいる。後援会にとって、政治家の世襲は、もっとも選挙に勝ちやすいミコシとして重要なのです。自民党は、強力な後援会組織によって維持されてきました。今回、マスコミで喧伝されているように、大物自民党議員が続々と落選するということは、後援会の関係者が失業するということです。一度、崩れたら再構築は難しいでしょう。
◇これは逆に言えば、後援会の力が以前に比べて疲弊しているとも言えるでしょう。小泉「改革」により、利権そのものが薄まったということもあるのでしょう。後援会もない小泉チルドレンが古い後援会組織を壊したとも言えます。いずれにせよ、地域利権の代理人として政治家、というものが、消滅に向かうことは間違いない。
◇個人が個人の立場で議員を選ぶ、という流れが生まれるかも知れません。民主党が政権をとったら、これだけは実現して欲しいと思うのが、「インターネット投票」です。選挙活動のネット利用が制限されていることが問題になっていますが、もっと本質的には「ネット投票」だと思います。アメリカでは宇宙飛行士だって、選挙に投票出来るのです。
◇僕の信頼する友人は、10数年前に「シークレットFAX」という機器を開発しました。これは、通常のFAXだと送信すると受け取った人が見てしまうが、用紙をシールでかぶせてあるので、シールをはがさないと中身が見えません。彼は、これを選挙に応用出来ないかと模索しました。遠洋漁業に行く漁師は1年近く外洋に出ていることもあるので、投票が出来ません。シークレットFAXであれば、選挙管理委員会の人以外に覗くこともなく投票出来るわけです。
◇ところが、この考え方は、当時の自治省によって否定されました。それは自治省の背後にいる政治家によってだと思います。現在、政治家になっている人は、地域の後援会なり組合や宗教などの組織票によって、大半の票を確保することによって勝利してきた人たちです。今まで投票してこなかった国民が投票することによって、浮動票が増えることを恐れたのでしょう。若者たちの投票離れを嘆く裏側で、若者たちが気軽に投票出来るシステムに対しては抹殺してきたのです。
◇国民投票的な選挙システムについては、ポピュラリズムからの否定する声もあるでしょう。実際、口達者なテレビのタレントに政治を支配されるかもしれません。しかし、それを含めて、国民の声であるべきです。実際に、人気者だけで当選しても、その実態や行動を国民は監視しているわけです。首相だけではなく、すべての議員が、個人として国民投票を受けるべきです。党は、むしろ、当選した議員同士が議論してから結成すればよい。党や組織に従属した個人は、20世紀の遺物です。
3.官僚について
◇官僚の天下り問題や、無駄な土木工事や建造物に対する責任問題が出ています。僕は官僚に対しても、官僚一般という見方はしたくありません。企業にも良い社員とズルい社員がいるのと同じことです。むしろもっと大きな問題は、戦後社会が豊かになって以後、企業は自分の会社の利益しか考えなくなったし、個人も自分の生活のことしか考えなくなった。誰も社会全体のことなど考えなくなった。これは省庁においても同じで、自分の省庁の利益しか考えない官僚が大半であると思います。
◇僕は東京の新宿に1950年に生まれました。2月の早生まれなので学年的には49年と同じで、いわゆる団塊世代の端っこです。小学校はクラスが6組まであったし、中学校はK組までありました。小学校にプールが出来たのは小学校6年生の時で、それまでは隣の小学校に借りに行ってました。僕らより下の世代は、最初から学校にプールがあるのが当たり前で、いいなあ、と思ったことがあります。
◇神宮外苑に絵画館があります。大正天皇の記念館で、大きな池が前にあって、広々としてます。小学生の頃、よく絵画館の裏手にカブトムシを捕りに行ったものです。ちなみに、絵画館はてっぺんが半円状のドームになっていますが、子どもたちは「ハゲオヤジ」とか「テル館」とか呼んでました。僕は「テル館」がなじんだ呼び方です。
◇それで、小学生の半ば頃、絵画館の前の池が突然「児童プール」になったのです。料金は取られましたが、真夏の太陽の下で水遊びをしたことを覚えてます。着替えは絵画館の中で、大正天皇の大きな肖像画の下で着替えたものです。
◇それは恐らく、「子どもたちのプールが足りない」と悩んだ官僚が、使えそうな施設を見渡して企画してくれたのだと思う。日本は貧乏だったが、官僚にアイデアさえあれば、子どもたちに笑顔を提供できたわけです。
◇僕は日本の官僚の人たちで、優秀で人間的にも尊敬出来る人を知っています。何よりも、僕にとっての情報化社会の先導者である林雄二郎さんは、戦後社会の中でのとても優秀な官僚でした。しかし、現状を見ると、とても痛々しい現実があります。それは、「豊かな社会」以後、多くの優秀な官僚たちの仕事が、予算を配分し、配分した予算がちゃんと使われているか精査する業務に没頭されていることです。絵画館の前に児童プールを作る、という予算はないけど企画と行政の調整機能だけで実現出来ることを、莫大な予算をつけてプールを造成することが仕事になってしまったことです。本来、企画力で勝負すべき業務を、まるで銀行の出納係みたいなことが業務の本筋になっていることは、とても不幸です。
◇官僚の業務は過酷なものです。虎ノ門の飲み屋のおばさんは、こんなこと言ってました。「日本の官僚が忙しいのは、日本の政治家がガキだからよ。権力取ったら、いばってばかりで、官僚を奴隷のように扱う。海外に視察に行く時、欧米の政治家は自分で手配するが、日本の政治家は官僚が全部面倒みて、付き添いだよ」と。人間個人の魅力で当選してきたのではなく、後援会のミコシに乗ってきたのだからだと思います。
◇30代で体を壊す官僚も少なくない。そして、体調崩して退職して、民間のコンサル会社に再就職したら完全週休5日で、給料も5割増しになったので驚いた、という話も珍しくありません。それでも、そうした人たちでも、単純に喜んでいるのではなく、官庁で社会的な仕事が出来なくなったことを悔やんだりするのです。こうした状況をはしょって、天下りの問題だけを取り上げても本質的な解決にはならない。マスコミは、こうした実態を知りながら、天下りだ、居酒屋タクシーだと騒ぐ。これこそ、ポピュラリズムではなくて、なんであろう。
◇ちょっと自分のことで恥ずかしいが、こういう官僚がいるということを伝えたい。ある官僚とメシを食っていて、彼は、こういうのだ。「僕らは公務員だけど、今の公務員は省益だけを大事している。本当に社会全体のことを大事な問題にして動いてる橘川さんみたいな人が、公務員と言うんですよ」と。僕は「公務員なのか(笑)」と驚いたが、実際の公務員が本来の意味の「公」の公務員としての活動が出来なくなっていることが、公務員改革の最大の問題だと思います。
◇官僚も企業人も普通の個人も、自分のことを考えることは大切だけど、同時に社会全体のことを考えることも大事になってきていると思います。「脱官僚」といって、官僚たちを道具のように扱えば、システムは機能しなくなる。官僚たちとの個人的な関係を充実させていくべきでしょう。
4.Power to the People
◇小泉さんが「構造改革なくして景気回復なし」と叫んだ時、とても彼の言うことが構造改革とは思えなかった。それは構造改革ではなくて、明治以来の、近代合理主義の更なる推進でしょう、と思ったわけです。郵政民営化にしても、確かに、郵便局長の組織は、明治維新で疲弊した藩組織の家老や重役たちの救済策として割り振られたもので、それを潰すのは明治維新の完成です。しかし、それが郵政民営化になるというのは、あまりに時代錯誤です。単なる企業にしてしまえば、企業は最大利益を追求する組織だから、利益効率の悪い郵便事業をおざなりにして、金融事業にひた走るのは分かりきっているわけです。
◇21世紀を展望するなら、郵政はNPO化すべきだと、今でも思っています。NPOは利益追求が最大テーマではないが、社会に必要な事業を自前の力で運用していく組織形態です。国がNPO法を作り、時代の社会組織構造として推進するのであれば、最も社会的事業組織である、郵便や鉄道こそがNPOの事例として推進すべきです。JRも、一般企業にしてしまったら、ホテルやコンビニまで始めて、民間事業を圧迫するだけ。NTTも同様です。NTTは情報化社会のインフラ整備だけを業務とするNPO法人化すべきです。国がNPO組織の事例に先鞭をつけないから、実際のNPOは、寄付目当ての受け皿になったり、アウトローに使われたりしています。
◇小泉さんをあおった学者たちが、アメリカから導入した考え方は単純です。中央を小さな政府にして地方分権を進めるわけですが、このモデルは、企業コングロマリットの構造と同じです。すなわち、中央は、少数精鋭によるホールディングカンパニーとして、地方を子会社化する。地方の利益は中央に集中するようにして、その利益は株主であるアメリカへ流れるという構造です。金融植民地主義とも言える構造を日本に押しつけようとしたわけです。小さな政府が出来ても、権力が異常に膨張するのであれば意味がない。
◇欧米の企業は、最初は日本に会社設立して競争しようとしたが、日本市場の特殊性の故にうまくいかなかった企業が多い。小泉権力の時代に、欧米の企業は続々と日本の株式市場の上場を廃止しました。その代わり、日本企業の大株主になったのです。自分で会社やるより、日本の会社を株式で支配して、配当を要求した方が楽だと気がついたからです。
そしてファンドの宣伝要員たちが、「資産の8割は投資に回せ」と叫び回りながら、企業へ資金を誘導したわけです。大型M&Aによる企業の肥大化は、より欧米の株主が利益を集中させるために都合のよいものでしかなかった。その他、小泉権力の時代に、どれだけ日本の国益が海外に流出したかは、企業がいくら利益をあげても国民の豊かさを実感出来なかったことによっても自明です。戦後、あれだけ一生懸命働いて稼いだのに、なんで貯金がないばかりか莫大な借金を抱えているのか、もういちど、冷めた目で考え直したい。
◇こうした中央への見えない権力集中の流れを絶たなければならない。道州制など、地方への権力移行は、更に言えば、都道府県規模から、市町村レベルへの権力移行が必要だし、更に、個人への権力移行への流れがなければ意味がないと思います。個人の力を自覚してこそ、組織のしがらみや強制を廃して、個人が個人を選ぶ選挙が可能になるのです。地方分権から更に個人分権の時代へ向かわなければならないと思います。インターネットとは、まさに、個人が個人の力を強く柔らかく磨き上げるためのツールなのだと思います。
5.デメ研としての方向性
◇「インターネット投票」の実現を希求し、その実現のための運動・関係を進めていきます。
◇党派に規定されない、個人の政治家との関係性を築いていきます。個人として信頼出来る候補者を支援していきます。
◇支援の方法は、僕らが出来ることは「メディア一般」ですので、出版・放送・新聞・ネットなどを活用した支援になります。
◇社会システムのあり方について、現場感覚をベースにしてプランニングを続けていきます。政治家・官僚・行政関係者へ提案作業を行って行きます。
▼備考
*現在、超党派の議員を集めて、「インターネットの諸問題」を話し合う場を準備しています。必要に応じて、「インターネット」以外の問題についても議論を広げていきたい。
*このマニフェストは、転載可能です。「デメ研マニフェストver.01/橘川幸夫」とクレジットを入れてください。