デジタルメディア研究所研究員・東大法学部卒業後、都庁勤務などを経てIT関係のライター、翻訳者。著書に「データベース・電子図書館の検索・活用法」(東洋経済新報社・下中直人、市川昌弘と共著)、「 ソーシャル・ウェブ入門入門 Google, mixi, ブログ…新しいWeb世界の歩き方」(技術評論社)など。個人のブログはSocial Web Rambling

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2007年11月24日

市川・滑川対談 キルン・ピープルを参考にセカンドライフにゴーレムを導入せよ! (1)

滑:こないだ市川君に勧められた「キルン・ピープル」さっそく読んだよ。これはバーチャルワールドもののSFとしてひさびさにヒットだね〜。

市:おもしろいでしょう。これは「霊子工学」ってものが発達した近未来の話で、粘土の塊に工学的にユーザーの「霊」を刷り込むと、粘土が賦活化されて24時間に限って本物そっくりの「ゴーレム」になって活動できる、という設定なんです。

滑:ゴーレムってのはユダヤ神話でラビが呪文を唱えるか何かすると精気を吹き込まれて動きだすという泥人形だね。ロボットのアーチタイプだから、SFではもちろん定番なギミックなわけだけど、ゴーレムを1人称で主観描出するってのはぶっ飛んでる。

市:そんな設定で長編が書けるのかと思って読み出すとこれが正統的なハードボイルド探偵モノの定石に乗って快調に飛ばしてくんですね。

滑:最後の方でやたら哲学的になったあたりでちょっとだれるけど、全体として4つ星(5つ星を満点として)くらいはやりたいな。バーチャルワールドではフィリップ・ローズデールがセカンドライフを作るとき「スノウクラッシュ」をヒントにしたっていうのが有名だけど、「キルン・ピープル」も新しいタイプのバーチャルワールド構築のヒントがいろいろありそうな気がした。

市:いやー、実はこのネタは、元々オンブック近刊予定「セカンドライフ国勢調査」のあとがきで使おうと思ってたんですがw

滑:わりーわりー。

市:不思議なのはこれだけセカンドライフが話題になっているのに、誰も「キルン・ピープル」について言わないですね。Webマーケティングでメシ食っている人たちって、SFなんか読まないみたいですね。Web2.0な人たちもSFなんか読まなさそうだ。ま、そんなとこでダメ出ししてもしょうがないけどw 実際、「キルン・ピープル」には、セカンドライフが成功するためのヒントがたくさん詰まっていると思います。というか、ボクがリンデンラボの社長だったら、セカンドライフをこういう方向に持っていきますね。

滑:というと?

市:ボクは「いまのままだとセカンドライフには中途半端な成功しかないんじゃないか?」と思ってるんです。そういう目で「キルン・ピープル」を読むと、“セカンドライフ2.0”のためのヒントが満載だぞ、と。

滑:中途半端というのは?

市:いまのセカンドライフって3Dの使い方がちょっと違うんじゃないかと思うんですよ。それと立ち位置が昔のアップルなんじゃないかと。昔のアップルてか、マッキントッシュを出した頃までのアップルって、「マーケティングで失敗してるのになぜか市場で成功する」という変な会社でしたよね? 「大衆のためのフォルクスワーゲンだ」といってアップルIIを出したら、高くて一般の人は買えなかったけど、「ビジカルク」という表計算ソフトが出て、金のあるビジネスマンが飛びついたので、実はビジネスの世界でヒット商品になった。

滑:金のない一般人とか学生はコモドールとかアタリとかだった時代だな。

市:「ウォーゲーム」っていう映画でも、マシュー・ブロデリックの天才少年ハッカーは、IMSAIというキットのマシンを使っていたましたもんね。。

滑:そーだったっけ? さすが博覧強記の市川くんだな。

市:もうひとついうと、アップルはそれで勘違いして、最初にマックを出したときは「この画期的なマシンで企業を変えるんだ」って脱IBMを狙ってこれもまたビジネス向けに売り出したんですよね。ところが普通の会社で買うのにはやっぱり高すぎた。

滑:もうIBM互換機がすでに安くなってたからね。しかしキャラクターベースのMS-DOSに比べたら当時としてはMACのGUIは圧倒的に進歩してたな。

市:それでデザイナーとか、リッチな個人ユーザーが飛びついて、そっちの世界で人気商品になったわけですね。そのあたり「マーケティングで失敗して市場で成功する」の意味なんですが、いまのセカンドライフはまさにこれでしょう。ユーザーがウン百万人といってるけど、実際にアクセスすると、どこを歩き回っても閑古鳥が鳴いている状態で、誰にも会わない(笑) でも、企業の参加ラッシュは勢いが止まらなくて、世界の一流企業がどんどんセカンドライフに進出している。3Dウェブを大衆化させるという意味ではまだ成功といえないと思うけど、企業の誘致とマスコミへの露出、株価的な企業価値の創造という意味では成功しちゃってる。こういう変な状況にあるのが、いまのセカンドライフだと思うんです。

滑:しかし、収入自体はセカンドライフの中で洋服とかアクセサリとか作って売ってる個人ユーザーからのサーバー利用料が大きいようだけどね。企業からの収入の割合はそれほど多くないようだ。

市:そのあたりもやっぱり話題先行ですね。で、まあ、素直な感想としては「このままじゃダメなんじゃないの」と。ただし、3Dウェブの技術自体はいいものなんで、使い方次第だと思うんですよね。

滑:つまり、市川くんがさっき言ってた「3Dウェブの使い方がちょっと違うんじゃないか?」という話だね。

(第2回に続く)

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