デジタルメディア研究所研究員・東大法学部卒業後、都庁勤務などを経てIT関係のライター、翻訳者。著書に「データベース・電子図書館の検索・活用法」(東洋経済新報社・下中直人、市川昌弘と共著)、「 ソーシャル・ウェブ入門入門 Google, mixi, ブログ…新しいWeb世界の歩き方」(技術評論社)など。個人のブログはSocial Web Rambling

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2007年08月24日

「ヒトデはクモよりなぜ強い」(日経BP近刊)

本書「ヒトデはクモよりなぜ強い」は「21世紀はリーダーなき組織が勝つ」というサブタイトルのとおり、頭を潰されたら死んでしまう伝統的「クモ型組織」に対して、バラバラに切断されても強靭に再生する「ヒトデ」型組織の強さが強調されている。

アメリカのノンフィクション例に漏れず、ツカミがおもしろい。大航海時代にスペインはピサロ以下少数の冒険家でインカ帝国とマヤ帝国を滅ぼし、メキシコ中部以南の新大陸を制覇した。ところがメキシコ北部でアパッチ族に敗れ、アメリカのスペイン領有はそこでひとまず停止してしまう。なるほど、もしこここでアパッチ族の抵抗がなければミシシッピ川西岸までスペイン領となっていたかもしれず、そうなっていたら歴史は大きく変わっていただろう。

本書の冒頭では、アパッチ族の抵抗が「非集権的ヒトデ型組織」の強さの典型として取上げられて、既存のレコードレーベルがP2Pによる音楽ファイル共有に手を焼くありさまがスペイン軍対アパッチの戦いに対比されている。

著者によれば、「スカイプvs既存電話会社」、「(サーバーソフトの)アパッチvsマイクロソフト」、「アルカイダvsアメリカ」がそれぞれ「ヒトデvsクモ」でヒトデの方が強い例とされる。

しかしクモは複雑な網を作って捕食したりするかなり高等な動物であるのに、ヒトデには組織の分化もほとんどなく、原始的な反射以外に知能らしきものもない。P2Pネットワークのような高度なテクノロジーと比べるのはどうかとツッコミが入りそうだ。しかしイメージ喚起力のある比喩には違いない。

ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ(日経BP)ほど執拗・重厚なデータの羅列がなく、文章は軽快で読みやすい。その「ウィキノミクス」(日経BP)、佐々木俊尚氏の力作フラット革命(講談社)とあわせて読むと現代のマスコラボレーション化、フラット化、ソーシャル化が立体的につかめるだろう。

ヒトデはクモよりなぜ強い
21世紀はリーダーなき組織が勝つ
オリ・ブラフマン/ロッド・ベックストローム 共著 糸井恵 訳 日経BP 1800円

9月3日近刊

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