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2007年08月31日

第1回教育CSR研究会セミナー

第1回教育CSR研究会セミナー
2007年5月28日(月)13:00〜17:00 於:SYD ホール(東京・千駄ヶ谷)

―セミナー概要―

□「ODECOプロジェクトと教育CSR研究会について」
株式会社デジタルメディア研究所 ODECOプロジェクト 代表 橘川幸夫

平成18年に文部科学省の「新教育システム開発プログラム」の1つとしてスタートした「ODECOプロジェクト」。その特徴は教育プログラムを全国一律の「押し付け型」ではなく、メニューを作って学校の先生に選んでもらう「オンデマンド型」のシステムにある。平成18年度は10のプログラムを97校、約8,000人の受講者の実績を挙げた。その実施、運用の過程で全国各地の学校関係者と話し合いながら、見えてきたことは、都会ではいろいろな選択肢があるが、地方に行けば行くほど選択肢が少なくなっていくという、教育の地域間格差が広がっているということと問題が多様化していること。平成18年にODECOが募集したプログラムの中で「不登校プログラム」が地方の学校からの応募が多かったのは、都会なら「転校」という選択肢があるが、地方ではそれは容易なとこではないからだ。
現在、企業もCSRや社会貢献の一つとして、教育分野に力を入れ始めている。以前から工場見学等のプログラム、最近では「出前授業」という形が主流になってきている。しかし、現場である学校の実情や意見を知らずに、「こういうプログラムを作ったから、やりませんか」というのでは、「押し付け」になってしまう危険性もでてくる。
そこで、「『企業』と『専門家』と『先生』の情報交換をする場を作り、3者の持っているノウハウをあわせて、新しい教育プログラムを開発することが出来ないか?教育プログラムというコンテンツを今よりもっと面白いものに出来ないだろうか?」ということが『教育CSR研究会』を立ち上げるきっかけとなり狙いになった。


□「学校環境は今どうなっているのか?」
NPO 法人教育支援協会代表理事 / 中教審・総合的な学習の時間専門部専門委員 吉田博彦氏

現在の教育に関する主な問題は1.『規範意識』2.『学力問題』3.『ニート・フリーター問題』4.『学習意欲の問題』がある。『ゆとり教育』が批判されているが、学校の現場は、1.中央から地方へという流れが逆行し始めた『教育政策の揺らぎ』。2.環境教育等の新しいカリキュラムの必要性が出てきた『社会の変化への対応』。3.キレる子ども、軽度障害児など『子どもたちの変化』。4.『保護者の劣化』という問題を抱えている。
「今の学校は学力形成だけでなく人格形成も期待され、教師が課外活動、生活指導、進路指導を抱え込んでいる。教育を学校だけでなく家庭、地域、企業が出来ること、本来なすべきことを引き受ける必要がある。学校教育も教員外の専門家や民間教育機関がかかわれるようにして、社会総がかりの教育体制が必要」(1995年経済同友会『学校から合校への提言』)。教育の問題は「学校の時間」の質が低下したというよりも、むしろ子どもと社会の関係である「家庭の時間」と「地域の時間」が劣化したこと起因していることも多い。学校から帰った後の子どもの居場所がないのだ。
その対策として、文部科学省と厚生労働省は連携して総事業費約1,000億円の予算をかけ、2007年4月から「放課後子どもプラン」を全国すべての公立小学校約10,000校を対象に、スタートさせた。その内容は授業の予習復習をはじめ、スポーツ、自然体験活動、ボランティア育成、不登校生徒・児童支援等多岐にわたる。
「学校の時間」に加えて、今まで「家庭の時間」「地域の時間」にあったはずの教育を「放課後の時間」で実施していくということだ。この「放課後の時間」に地域社会や民間団体、企業の教育CSR や社会貢献としての参画を期待している。


□「教育の情報化、情報教育の現状と課題」
独立行政法人 メディア教育開発センター 教授 中川一史氏

e-Japan重点推進計画により「2005年度までにすべての公立の小中学校学級・授業に教員・児童・生徒がコンピュータやインターネットを活用できる環境を整備する」という国の政策があったが、これはまだ実現されていない。
教育の情報化の問題点は、各市町村が教育の情報化に予算を付けるかどうかという「地域の2極化」。学校が情報化に積極的に取り組んでいるかどうかという「学校の2極化」。それから、「教師の2極化」の3つがある。
特に「教師の2極化」は、団塊の世代の退職によって、教師が若手とベテランが多くなり、中間層の30〜40歳代の教師がほとんどいないという「教師の2007年問題」といわれる現象に起因している。
ベテランの先生は、子どもたちに教える「授業力」は高いが、PCを操作する「ICT(情報化)スキル」が低く、逆に若手の先生は「ICTスキル」は高いが「授業力」が低い。
そこで、ベテランの先生には「大きく見せること」「動きをみせること」といったシンプルなICTを活用してもらうというアプローチをとる。
若手の先生には1.「授業を面白くするために、どうデジタルとアナログを使い分けていくか」。2.「狭い意味での基礎・基本をキチンとやり『確かな学力』を付けていくことと発想力、応用力、実践力を付けていく『豊かな学力』を車の両輪として捉えて新しい授業の仕方を考えていく」という2つのアプローチをとる。
Dプロジェクト(デジタル表現研究会)では、プロジェクトごとに企業の協力を受けながら、この『豊かな学力』を付けていくための授業作りに取り組んでいる。


□「公立学校の現状と課題」
東京都八王子市 城山中学校 校長 吉田和夫氏

学校経営は一般の企業経営とは違って、「不明確な成果」「人・こと・モノ・金のマネジメントの不在」「フラットな組織」「教育委員会・行政と関係」等の特徴があった。それを変革していくために現在、「校長の権限の強化」「地域との関係」「民間人の起用」「学校支援ネットワーク」という4つのテーマで「特色のある学校づくり」を進めていこうとしている。
その中でも一番重要なのが、地域や企業、NPO等の外部との連携だ。
中学校では教育課程年間980時間の中にすべてを盛り込むのは無理があり、教員も対応できない。しかし、土曜日や夏休みや冬休みといった機会を活用しながら、学校と外部の共同プロジェクトという形で、教育課程外活動を展開していきたいと考えている。
近年、企業のCSR・社会貢献活動が推進されてきているが、学校が何より外部に求めているのは人的支援。企業によるマナー講習や職場体験は生徒たちにとって、貴重な体験となる。それから、使わなくなったコンピュータなどの資材や資源を寄贈してもらえるのもありがたいことだ。
そのためには「全国一律」という発想から「できるところからすぐやれるところを」という発想に切り替えて、まず、やる気のある学校に協力するというところから始めていただきたいと思う。
そういった、外部との連携の中から開かれた新しい学校のあり方が、見えてくる。

□企業事例「Yahoo!JAPANの社会的な取り組み」
ヤフー株式会社 社会貢献企画 鶴岡弘子氏

ヤフーはインターネット産業を代表する企業として、インターネット社会が安全で健全に発展していくことを目指して、小中学生に向けて、「あんしんねっと」「Yahoo!きっず」等のサービスの提供と子ども・保護者・学校関係者向けのセミナーやワークショップを実施している。
「あんしんねっと」(http://anshin.yahoo.co.jp/)は小中学生に不適切なサイトに接続できないようにするフィルタリング・サービス。「Yahoo!きっず」(http://kids.yahoo.co.jp/)は子どもが学校や家庭で利用する安全なサイトを集めたサイトで、楽しく学習できるオリジナルコンテンツも提供している。セミナーは子ども向けにはクイズ形式のものを多用し楽しく学べる形をり、保護者向けにはネットの危険性を啓蒙する形をとっている。


□企業事例「日本財団 公益コミュニティサイトCANPAN」
日本財団 情報グループ長 寺内 昇氏

日本財団が2006年6月から運用を開始した「CANPAN」(https://canpan.info/)は国の情報から、草の根の活動を行っているボランティア団体、個人の活動情報まで、公益活動に取り組む人々の情報を共有できる、世界初の公益コミュニティサイト。このサイトにはブログ機能もあり、登録をすれば、ブログを開設することができる。「読んで元気になる」を選考基準に「CANPANブログ大賞」も設定されている。また、同年11月からは、「企業が取り組む公益」であるCSRについて、一覧性を持たせた情報を市民に直接届け、ステークホルダー同士の対話やエンゲージメントを促す場として、CANPAN内にCSR専門サイト『CANPAN CSRプラス』(https://canpan.info/csr/)を開設した。『CANPAN CSRプラス』はCSRの取り組みに対する情報公開度を独自の48項目でポイント化を試み、データベース化している。